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胚培養士さんの未来のために 北里コーポレーションのブログ

皆様こんにちは、北里コーポレーションの内山です。

前回のブログでは、弊社ウェビナーで紹介できなかった受講者の方からの質問についてお話しました。江副先生の卵子凍結に関する丁寧な回答をご紹介しました。

今回もまたウェビナーでご紹介できなかった受講者の方からの質問と講師の先生の回答を紹介いたします。加藤レディスクリニック 培養部 主任 伊藤 基樹先生による「培養室管理と教育の重要性」の講演後にいただきました質問です。

 

培養成績低下の原因究明方法

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培養成績に長期的な低下が見られ、また、短期的でも患者背景に原因が認められなかった場合、原因究明のステップとしてどのような事項をチェックしていらっしゃるかご教示いただけないでしょうか。
加藤レディスクリニック 培養部 主任 伊藤 基樹 先生
伊藤基樹先生

採卵までのステップに問題がなかったという前提で説明します。培養成績は大きく分けると受精率、発生率、妊娠率の3つに分かれると思います。どこの段階での成績低下なのかによって対処は異なります。

顕微授精や凍結融解など個人の手技による成績低下が考えられる場合は、初心に帰り、改めて胚操作手技や手順が正確かつ丁寧であるかどうかを成績の安定している培養士が指導を行います。ほとんどの場合それにより改善されると思います。当院ではC-IVF、ICSI、凍結、融解等の胚培養士個々の成績を1か月単位で記録しており、誰でも閲覧できる状態にしてあります。これにより早期に成績の低下を検知することができ、安定した培養成績を維持することができていると考えます。

培養室全体の成績(胚発生率や妊娠率など)であれば、インキュベーター環境の再確認、培養液や培養DishのLot変更など、原因と考えられる箇所を中心にチェックを行います。

また、受精率(異常率などを含む)、胚盤胞発生率、妊娠率などを日間、週間、月間の3つに分けてデータ出しており、こちらも誰でも閲覧できる状態になっています。これにより短、中、長期における成績の低下をいち早く検出できるようにしています。

以上、培養成績が低下した場合の対応方法について伊藤先生の回答をご紹介しました。

院内における成績管理の重要性

ARTの成績の変動要因は、患者様(不妊原因、年齢など)、卵巣刺激法(薬剤、方法など)、培養士(技術、経験など)、培養環境(培養液、培養器、デバイスなど)様々です。問題が生じた場合、早期発見、早期対応が現場には求められます。培養士の技術や経験に起因する変動は軽視できません。

 以前、ICSIの受精率の変動が気になり、変動原因について考察するよう、部下の培養士に指示したことがありました。他の技師と比べ平均的な受精率であれば、特段問題ではないと思われがちですが、成績管理は、平均値の確認だけでは万全とは言い切れない難しさがあります。

例えば図1に示すように、A.B.Cさんの平均値は殆ど同じでも、毎月成績が安定しているAさんに比べ、BさんとCさんは何らかの問題を抱えている可能性があります。

培養士は安定した結果を維持し、安全な医療を提供しなければなりません。技術の保証、証明となるのが成績管理であると考え、私も現役時代は、短期、長期、個人、Lab全体に対し内部精度管理を実施していました。ICSIでは受精率、胚盤胞発生率も追跡し、図2に示す通り培養士一人一人の操作確認をビデオ動画で行っていました。

 

ただ漠然とデータだけを見ていても気付かないことも、QCの7つ道具の1つとされる図表を利用することで、成績の状態や傾向、問題を捉え、原因の究明がしやすくなります。

問題があってからではなく、日頃から他の培養士の操作を見ること、見られることも成績管理となり、Lab全体の成績向上につながると私は考えています。

外部精度管理の効果:ESHRE-Vienna consensusから学ぶ

症例数の多い施設なら統計データの信頼性も高く、比較的管理が行い易いのかもしれませんが、症例数の少ない施設では、統計データの信頼性や管理の方法に課題があります。このような場合は、外部精度管理を活用することが良い方法と考えられます。外部精度管理は、自施設の結果が他の施設と同一性を持っているかどうかを評価する管理手法です。

ARTにおいては、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)が公表する Vienne consensus(1)が広く知られています。ある施設では、ここに示されているベンチマークやKPIを採用し、医師や培養士以外の専門スタッフを配置し、リアルタイムで客観的な評価を行い、医師や培養士に対してフィードバックを提供することで、著しく成績向上効果が得られたと報告しています。

また、日本臨床エンブリオロジスト学会は、複数施設におけるConventional-IVFおよびICSIの培養成績、融解後生存率および臨床妊娠率に関連する調査報告(2)を、2015年より毎年更新しています。症例数の少ない施設であっても、比較対照として参考になる情報です。

北里が取り組むBPR (Best Practice in Vitrification Recognition)制度

北里コーポレーションでも、海外での取り組みとして、2021年からBest Practice in Vitrification Recognition(BPR)制度を開始いたしました。

このプログラムは、Cryotop® を使用して、臨床結果の年次提出をしていただき、凍結卵子・胚数、生存率、着床率等において当社設定のKPIを達成された優良施設を表彰しています。また技術指導の必要性やご要望があれば専門スタッフがサポート支援しています。

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日本国内でもBPRの制度を導入予定です。国内外での医療の向上と安定した品質の確保を目指し、北里コーポレーションは積極的に支援活動を展開し、今後も医療の先進性と品質向上に向けて、施設と協力し合いながら製品開発を続けてまいります。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

参考文献
1)The Vienna consensus: report of an expert meeting on the development of art laboratory performance indicators.
ESHRE Special Interest Group of Embryology and Alpha Scientists in Reproductive Medicine
Human Reproduction Open, pp. 1–17, 2017

2)複数施設におけるConventional-IVFおよびICSIの培養成績と融解後生存率および臨床妊娠率に関連する調査
長瀬 祐樹、菊地 裕幸、畑 景子、水田 真平、後藤 優介 (日本臨床エンブリオロジスト学会学術委員会)
日本臨床エンブリオロジスト学会誌 Vol24,9-17,2022

脂肪酸添加のガラス化凍結融解液 VT525 VT526は、融解後の発生や治療成績向上に寄与します。

卵子、あらゆるステージの胚において高い生存率の実績があります。

Cryotop®-mini、Cryotop®-midは保存用タンクの収容件数を増やし、ラボの省スペース化、液体窒素の節減、管理コストの削減に寄与します。

 

内山 一男

執筆者: 内山 一男

1994年から加藤レディスクリニックで30年近く胚培養士として不妊治療に携わる。 ICSIの受精率90% 以上と当時世界一の技術達成に関わり、さらに安全なICSIを目指すべく卵子紡錘体の可視化と精子形態の厳選化を合わせたSL-IMSIシステムの開発およびルーティン化を実現。 培養士3人でスタートしたラボも60人の巨大なラボに成長し、巣立った培養士が多くの施設で活躍中。 常に新しい技術を適切に確立し取り入れ、累計5万人以上の赤ちゃん誕生に関わり得たことが一番の誇り。